人材確保へ、多様で戦略的な福利厚生・人事制度が加速
広がる“攻めの福利厚生”潮流
人材確保へ、多様で戦略的な福利厚生・人事制度が加速—最新動向と企業の取り組み事例
日本経済の持続的成長を支える重要な要素の一つに、「優秀な人材の確保と長期定着」があります。しかし、少子高齢化やインフレの進行、労働市場の逼迫といった社会的変化が加速する中、従来の人事制度や福利厚生モデルは大きな見直しを迫られています。これらの背景を踏まえ、多くの企業は競争優位性を高めるために、多様かつ戦略的な制度やサービスの導入を一層推進しており、その動きは今後も一段と活発化しています。
背景:制度改革と社会経済の変化の加速
2020年代に入り、日本は労働力不足とインフレという二重の課題に直面しています。コロナ禍からの経済回復に伴う物価上昇や少子化による労働人口の減少は、企業の経営戦略に直接的な影響を及ぼしています。この状況を背景に、従業員の満足度向上や長期的な雇用の安定を目的とした制度改革が急ピッチで進展しています。
特に2023年には、制度面でも重要な動きが明確になっています。約40年ぶりに見直された食事手当の非課税枠拡大や、労働基準法の改正、「同一労働同一賃金」ガイドラインの見直しなど、制度の透明性と柔軟性を高める施策が企業の間で広がっています。
最新動向:多角化・高度化する福利厚生と人事制度
1. プラットフォーム型福利厚生の拡大
従来の一律支給から一歩進め、従業員が自らのニーズに合わせて選択できるプラットフォーム型福利厚生が増加しています。例えば、Visaのプリペイドカードを活用したサービスでは、健康支援、教育費、レジャーや育児支援など、多彩な用途に対応可能となり、社員一人ひとりのライフスタイルや価値観にフィットさせることができるようになっています。これにより、従業員の満足度やエンゲージメントの向上が期待されています。
2. 食事・レジャー支援の多角化と制度の進化
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食事補助の非課税化とカード決済の自動化
『食事補助HQ』が特許を取得したVisa対応の「HQカード」では、社員が食事代を決済するだけで、企業の補助金を非課税で受け取れる仕組みを実現。これにより、コスト削減とコンプライアンスの両立に加え、社員の健康維持に寄与しています。2026年4月から引き上げられる非課税枠(最大7500円)を活用した制度も増え、より柔軟な対応が可能となっています。 -
休暇制度の拡充とレクリエーションの再開
株式会社ダイナムは2026年度から年間休日を117日から120日に増やすことを発表し、コロナ禍後には感染対策を行いつつ社員旅行やレクリエーションを再開しています。リフレッシュとチームビルディングを促進し、社員のモチベーション維持に役立てています。
3. 家族やライフステージに応じた制度の拡充
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育児・移住支援
丸亀製麺は、子育て支援のために年間最大12万円の補助制度を導入し、家庭と仕事の両立を支援しています。一方、トリドールHDは、世界各地の従業員約6,000名を対象に「家族食堂制度」を導入し、子育て中の従業員の精神的安定と働きやすさを実現しています。 -
LGBTQ+対応の拡大
職場の多様性を尊重し、同性パートナー証明や事実婚を認める制度も広がっています。これにより、多様な価値観を持つ従業員が働きやすい環境づくりが進んでいます。
4. 健康ケアと予防医療の充実
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オンライン診療・薬宅配の推進
従業員の健康管理を支援し、医療機関へのアクセス負担を軽減。長期的な健康維持と働きやすさを促進しています。日清食品などは、健康経営の一環として、予防医療や健康増進施策を積極的に展開しています。 -
がん検査支援や健康診断の充実
企業は、がん検査支援手当や予防医療支援制度を導入し、従業員の早期発見と健康長寿を促進しています。
5. ペットも家族の一員として尊重
ペット同伴出勤やペット看護休暇など、家庭と仕事の両立を支援する制度も増えつつあります。例として、TBWA HAKUHODOでは社員の家庭のペットを尊重し、ストレス軽減や家庭と仕事の両立を促進しています。
6. 資産形成支援と制度の公平性向上
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資産形成の見える化と支援
株式会社PeopleXは、従業員の資産状況を可視化し、長期資産形成を促進。制度の透明性と公平性を高めています。 -
家族手当や住宅手当の見直し、確定拠出年金(企業型DC)の導入
長期的な資産形成を支援し、従業員の忠誠心や働き続ける意欲を高める施策として採用されています。
7. 長期勤続者への報奨と人的資本投資
シーラホールディングスなどは、長期勤続者に対して永年勤続報奨金を支給し、人的資本への投資と長期雇用を促進しています。
8. 介護支援制度の拡充
花王は仕事と介護の両立支援を強化し、離職防止や従業員の安心感を高めています。介護休暇や相談窓口の充実により、長期雇用の維持に成功しています。
最新追加の取り組みとサービス
1. 社員のエンゲージメントを高める新たなギフト制度
社員の誕生日ギフトを社会貢献に転換する取り組みが拡大しています。
PR TIMESの報告によると、「【社員の誕生日ギフトが社会貢献に変わる】」という新しいモデルが注目されており、企業は社員に対する特別なギフトを、寄付や地域貢献活動に置き換えることによって、社会的意義と従業員満足を両立させています。こうした仕組みは、社員のエンゲージメント向上とともに、企業の社会的責任(CSR)の強化にもつながっています。
2. 中小企業向けの生活支援と地域密着型福利厚生
菊川工業は、総合福利厚生サービスの導入とともに、「お米の配布」など地域に根ざした支援策をスタートさせ、社員の生活と健康をサポートしています。
こうした取り組みは、従業員の生活安定と地域社会との連帯感を高め、働きやすい環境づくりに寄与しています。
3. オーダー装飾建材企業の福利厚生充実
菊川工業は、**新たに「福利厚生制度の強化」と「お米の配布」**を実施し、社員の生活支援および満足度向上を図っています。こうした実務的かつ地域に根ざした施策は、従業員の定着と企業のイメージ向上に寄与しています。
直近の制度改正と企業の対応
2026年施行の在職老齢年金制度改正
この制度改正は、高齢者の雇用や働き方に大きな変革をもたらします。
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制度の仕組み変更
年金と給与の併給範囲が拡大され、長期雇用や多様な働き方を促進。高齢者の雇用継続を支援します。 -
年齢制限の撤廃・緩和
高齢者が柔軟に働きながら年金を受給できる仕組みとなり、定年後も働き続ける選択肢が広がっています。 -
企業への影響
高齢者の雇用政策の見直しや、制度に適した評価・報酬体系の整備が求められ、制度運用コストや人事評価の調整も必要となります。高齢者も積極的に働く環境づくりが重要です。
賃上げ運動と福利厚生の連動
2026年2月の【第3の賃上げアクション2026】では、福利厚生を活用した賃上げ施策が強調され、従業員の実質的な手取り増や、物価上昇に対応した制度設計が進められています。
例外的な取り組み:従業員主導の制度設計
IT企業やスタートアップでは、従業員が福利厚生や制度内容を自ら会議や意見募集を通じて決定するケースも増加しています。これにより、エンゲージメントや制度満足度の向上、長期的な人材定着を促しています。
今後の展望:ITと柔軟化による戦略的福利厚生の深化
日本企業は、ITの活用や制度の柔軟化、多様化を軸に、制度の戦略的再構築と社会情勢に即した施策の最適化を進めています。
具体的には、
- AIやビッグデータを利用した人材管理
- リモートワーク・ハイブリッド制度の充実
- 社員の自己啓発や健康維持のためのデジタルツール導入
- 多文化・多世代に対応した柔軟な制度設計
これらにより、採用や定着の競争力を一段と高めるとともに、長期的な企業の持続可能性を追求しています。
現在の状況と今後の意義
福利厚生や人事制度の多角化・高度化は、もはや単なる従業員満足やイメージ戦略を超え、人材資産の価値を高め、長期的な競争優位を築く戦略的投資へと進化しています。
特に、社会の変化に対応した制度の柔軟性や、多様な価値観を尊重する取り組みが、今後の日本企業の競争力を左右します。
これからも、制度の戦略的再構築と社会のニーズに即した柔軟な施策展開を続けることで、企業は持続可能な成長と優秀な人材の確保・定着を実現していくでしょう。
この動きは、日本の経済社会において、働き方や価値観の多様化を促進し、より包括的で柔軟な雇用環境の構築へとつながる重要な変革となっています。
重要な新たな動きと具体的な事例
企業型DCとiDeCoの2026年制度改正
2026年に予定されている年金制度改正では、企業型確定拠出年金(DC)や個人型iDeCoの制度変更が大きな注目を集めています。
特に、「マッチング拠出の制限撤廃」や制度の柔軟化により、従業員の資産形成支援の幅が拡大。各企業はこれを積極的に活用し、長期的な福利厚生の強化や従業員の資産形成支援を図っています。
社食DELIと健康促進
また、社員の健康と働きやすさを支える新たな福利厚生として、「社食DELI」の導入が進んでいます。
導入背景として、移転を機に一部社員だけでなく全社員が利用できる仕組みを整備し、お弁当の利用率が従来の2倍以上に増加。ランチの混雑解消や健康面の配慮に加え、利便性の向上に寄与しています。こうした取り組みは、社員の健康維持と快適な職場環境の実現に大きく貢献しています。
今後の展望と戦略的意義
これらの動きは、日本企業にとって人材確保と定着のための重要な戦略的資産投資へと変貌を遂げつつあります。ITやデータを駆使した制度の個別化、多様化、柔軟化は、人材の多様な価値観や働き方に応えるだけでなく、企業の持続可能性を支える基盤となるでしょう。
社会の価値観や働き方の多様化を反映した制度づくりは、今後も加速し、より包括的で柔軟な雇用環境を築くことにより、日本の経済競争力をさらに高める役割を果たすと期待されます。
この流れを追い風に、各企業は戦略的な福利厚生と人事制度の再構築を継続し、優秀な人材の確保と長期定着を実現していくことが求められています。